紙の手形26年に廃止 手形とは?なぜ手形は危険なのか?
支払いまでの期間が長く、中小企業に重い負担
長らく日本に根づいてきた手形ですが、一方で手形はリスクが多く、避けるべきものと言われています。手形の不渡りと言って、資金不足や、そもそも手形の盗難・紛失などで決済ができないケースもあります。不渡りになると2年間銀行取引ができず、経営上致命的なダメージを追うことになります。したがって、「手形はなるべく避ける」がセオリーとなります。
政府は中小企業にとって資金繰りの負担が重いとして、5年後の2026年をめどに手形の利用を廃止するよう産業界や金融業界に対応を求める方針を打ち出しました。
ただまだしばらく手形制度は残ります。今回は、この手形について芳賀税理士に解説していただきました。
経営革新等支援機関 税理士法人ハガックス 代表社員
1970年生まれ、渋谷区で生まれ育つ。東京大学大学院卒業後、東京ガス勤務を経て、税理士法人ハガックス(渋谷区、税理士4名・スタッフ合計14名)の代表社員に。
中小企業大学校にて経営改善計画策定支援研修の講師及び試験評価委員を務める。主な著書は『現場で使える創業相談の手引き』。趣味はゴルフ、ジム、輪ゴムでハエを落とすこと。
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手形とは何か?
「約束手形」とも呼ばれる
製造業であれば、材料を購入して加工製造し、それがお店に並んで最終消費者に売れるまで、非常に多くの時間がかかります。建設業においても、材料を購入し、下請業者に発注し、工事が完了し代金が支払われるまで、何ケ月、何年もの工期がかかります。
そこで、これらの親事業者は、金融機関からの資金調達だけでは足りず、手形を下請事業者に振り出すことで、資金繰りをしています。手形とは将来、このお金を払いますよという約束をする証券のことで、約束手形ともいいます。
手形のメリットは?
手形を発行する親事業者では仕入れ代金などの支払いを先延ばしにでき、また金利負担が発生しません。また下請事業者は発注元から受け取った手形を裏書きという方法で孫請事業者への支払いにそのまま利用できます。
このように、手形は銀行を介さない企業間の金融として一定の役割を果たしてきました。
何が問題なのか
中小企業庁の「第4回 約束手形に関する論点について」より
手形には以前より2つの課題がありました。
手作業
・手形を振り出す際には、銀行から交付される専用の手形用紙に金額を印字し印紙を貼る必要があります。
・金額は後で書き換えられないように専用の機器(チェックライター)を用いるか、手書きで記入する場合は、壱・弐・参と漢数字を用いることになっています。
・書き損じでの訂正印は通用しないので、新たに書き直す必要があります。
このように手形の発行や管理は、手作業です。またそのままお金と同じ役目を果たしますので、厳重に管理する金庫なども必要になってきます。
下請代金の支払遅延
親事業者にとって資金繰りを改善するために手形を発行することは、比較的立場の弱い下請事業者にとっては、資金繰りの悪化につながります。
そこで、公正取引委員会から、下請取引の適正化に努めるよう次の通達がでていました。
・下請代金の支払は、できる限り現金とすること
・手形を使う場合でも、割引料等の負担を下請事業者の負担とすることのないよう代金を勘案すること
・手形期日は最大120日以内(繊維業90日以内)とすること。
また、これを短縮し60日以内にするように改正していく方針がこれまでも政府より示されていました。
電子債権について
これらの手形のデメリットのうち、手作業を解消するために、電子記録債権という方法も用いられてきました。
コロナ渦を受けて急速に進んだ脱ハンコ化と同じように、脱「紙の手形」により、企業では印紙や事務管理コストが大幅に削減できることとなります。
今回の手形廃止の方針とは
政府は中小企業にとって資金繰りの負担が重いとして、5年後の2026年をめどに利用を廃止するよう産業界や金融業界に対応を求める方針を打ち出しました。
ただ、手形を使わず電子記録債権に変わるだけでは、以前として下請事業者側にとって資金繰り改善にはつながりません。
今後も、引き続き、親事業者側において金融機関等手形以外の方法による資金調達により現金払いをしていく努力が求められることとなります。
読んでいただきありがとうございました。
基本的には手形は受け取らないほうが良く、手形ではなく請求書での銀行振込などの取引を交渉することが大事です。
今回の法改正によって、物理的な手形から「でんさいネット」などの電子手形に移行すると見られています。また、そもそも電子手形以前に、ネットバンキングでの銀行振込や新しいフィンテック系の送金サービスなどが発達してきています。
したがって、手形を使う意味自体が低下してきていると言えます。今回の手形廃止は、企業に対してメリットをもたらすでしょう。
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(取材協力:
税理士法人ハガックス 代表社員 芳賀保則)
(編集: 創業手帳編集部)